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「ガラスのトビラ」先日の日曜日の夕刻、新宿はコマ劇場の近くでちょっとした騒ぎがあったのです。20人くらいの人が遠巻きに騒ぎの中心を眺め、警備員が何事かと駆けつけ、近くに座り込んでいたホームレスのおじさんは、ただもうビックリしていました。 いったい何が起きたのか?全部わかる。起こしたのは僕だから。 その日、僕は一人で服を買いに新宿に出てきたのです。大体3時ごろ、雨が降り出しそうで降らない、人でごった返す日曜日の新宿。 パンツを買おうとし、裾を詰めてくださいと店の人に頼んだ。「2時間ぐらいお時間頂きますがよろしいですか?」と聞かれた僕は、その間に映画でも観てこようと思った。「少林サッカー」も「スパイダーマン」もまだ観てなかったしね。それで僕は、それでお願いします、と言い会計を済ませ、引換証をもらった。それで、新宿コマ劇場周りの映画館が集まっている所に向かったわけです。 コマ劇場横の広場をぐるりと囲んだいくつかの映画館。広場の中心にとりあえず立ってみた僕。日曜日ということでなかなかの人出です。僕はその広場の一辺を丸ごと塞ぐように立っている「少林サッカー」をやっている映画館の建物に向かいました。するとね、なんか人が沢山行列してて、「少林サッカー」のチケット売ってるカウンターにうまく行けないのよ。行列の中の一人に何の行列か聞いてみたら、案の定「少林サッカー」見る人の行列だって。それで、これはちょっと、と思った僕はその映画館のはす向かいでやってる「スパイダーマン」をやってる映画館の方に行ってみたんです。 そしたら、そこでもやはりかなりの行列。「少林サッカー」ほどではなかったけど、さすが話題作といった所です。それで僕は、ちょっと空いてそうなのはないかなと探し始めた。 程なく(っていうより振り向いたら)、「模倣犯」が封切られてて、そっちの建物にはあまり人がいなそうだった。それで僕は、「模倣犯」をやってる建物に向かい、まず、上映時間を調べようとしたんです。映画館は、その建物の地下にあり、通りに面して観音開きにガラスのドアが2セット、合計4枚並んでありました。一番左のドアの前にはホームレスのおじさんが座り込んでいて、ドアの奥が8畳くらいのロビー、ロビーの右手に地下の映画館への下り階段があるといった感じだったと思う。で、そのロビーの突き当たりの壁に「模倣犯」のポスターが貼られていて、上映時間が書いてあった。僕は、一つだけあいたガラスのドアからロビーに入り、そのポスターで上映時間をチェック。ここまでは、よかった。何も問題はない。 ここからです、問題は。 でも、「模倣犯」もなぁーと僕は迷い(優柔不断)、ポスターから後ずさりました。うん、他にも何やってるか見てから決めよ、そう思った僕はロビーから外に出ようと振り向き歩き出そうとした瞬間、まずおでこのあたりに強い衝撃が走りました。閉まってるドアから出ようとしてしまったわけです。でも、この時は「なんかぶつかった!」という信号が頭に届いただけだし、まだ分かってなかったです。それで歩き出そうとした右足が止まらずに、続いて膝がガラス戸に入りました。するとガラスにグワっと全面にひびが入り、大きな破片が外に向かっていくつも飛び出していきました。そしてガラス片が地面にぶつかって粉々に割れた。そして、すごい音がした。ホントははじめに頭をぶつけたとき、膝が入ったとき、そしてガラスが地面に落ちたとき、そこで音がしたはずなんだけど、音の認識はなんか後からやってきたような気がしました。僕に怪我はなく、痛みも殆どなく、現実感がありません。 ざわざわと人があつまりはじめ、遠巻きにこちらを見始めました。割れたガラス戸の隣のガラス戸の前に座っていたホームレスのおじさんがびっくりして、「いったいどうしたんだ?」と聞いてきます。ぼくは、歩き出そうとしてぶつかった事だけ伝え、階下の映画館の職員にガラスを割ったことを伝えに行きました。音を聞きつけて、若い人が上がってくるところで、ドアのガラスを割ったことを伝えると、少々お待ちくださいと奥へ引っ込んでいきました。 僕は、先ほどのロビーに戻り、ホームレスのおじさんに怪我がないか尋ねました。幸いおじさんに怪我はなく(ホントによかった)、「怪我はねぇけど、びっくりしたよ。どうしたらドアにぶつかるんだ?」と言われました。僕は、いやぁと笑うしかなく、ほどなくおじさんはどこかに去っていき、警備員とさっきの映画館の職員、それに彼の上司らしいおじさん(たぶん責任者)、それと僕で現場を囲む形となりました。 責任者が言います。 「それで、割った奴はどこにいったんだ?」 僕がすかさず、「私です」と答えました。責任者は僕に気が付いていなかったらしく、明らかにうろたえ、それからもう少し丁寧な口調で色々なことを質問してきました。けがはないか?(ありません)。どうやって割ったのか?(振り向きざまにぶつかりました)。それで、保険が利くかもしれないと、証拠用の写真をとることを職員に指示し、お客さんに別の入り口から入るよう、誘導を警備員に頼みといった感じでてきぱきと動き始め、僕はとりあえず、事務所にいって僕の連絡先を伝えました。それで、もう僕はやることもないので、そこでとりあえずさよならという感じ。さすがに、それから「模倣犯」見ようとは思わなかった。 実は、その責任者の人もそのガラスのドアに顔をぶつけたことがあるって言ってました。でも、そのときはガラスは割れなくて、そのかわり後で顔がけっこう腫れてきたそうです。それで僕が全然平気そうなので、驚いてました。僕の場合、ガラスが割れたので衝撃が吸収されたみたいです。この話をすると、その責任者の人を含め、みんな怪我がなくて良かったねといってくれます。それは、勿論その通りなのだけど、でもこう思ってしまう。 (かなり痛くてもいいから、割れないでほしかった...) 後日談。 その後、何日かして、あの件は会社のほうで処理したので、僕のほうに特に請求するものはないという、連絡を頂きました。ちょっと、テンションがあがりました。 |